お天気のことば<その4> 風の表現

風はどうして吹くの?
気象庁「はれるんライブラリー」(※1)では、「暖まった空気は軽くなって上にのぼり、その下に周囲から冷たくて重い空気が入り込みます。そのときに風が吹きます。」と回答しています。つまり、空気の流れを風として感じるわけですが、私たちは、この自然現象を素敵に、しかも、季節感いっぱいで表現していますね。

今は、まさに「風光る」~「風薫る」季節。
「光る」で穏やかな春の暖かさを、「薫る」で初夏の若葉の香りを感じます。さらに「光風(こうふう)」「春風(しゅんぷう)」「和風(わふう)」「恵風(けいふう)」「陽風(ようふう)」「東風(こち)」は前者、「薫風(くんぷう)」「緑風(りょくふう)」は後者のイメージなどと状況によって使い分けますが、いずれも春~初夏の生命の息吹を感じる言葉です。

もう少し季節が進むと「南風(はえ)」が吹きますが、梅雨時には、以下のように色を付けて表します。
黒南風(くろはえ)」:梅雨時のどんより曇った日に吹く南風。
白南風(しらはえ)」:梅雨明けの頃に吹く南風。
黒から白に変わり、明るくなって梅雨明け・・・よりイメージし易いですね。

一方で、間に「つ(「の」の古い言い方)を入れるような表現もあります。
天つ風(あまつかぜ)」:大空を吹く風。
天つ風 雲のかよひ路 吹きとぢよ をとめの姿 しばしとどめむ(※2)
時つ風(ときつかぜ)」:ほどよいころに吹く風。時節にかなった風。順風。
沖つ風(おきつかぜ)」:沖を吹く風。また、沖から吹いてくる風。

たとえば、「東風」を(ひがしかぜ)でなく(こち)、「南風」を(みなみかぜ)でなく(はえ)と読むことで、あるいは、間にひらがなを入れて繋ぐことで、そこに趣や風情をより一層感じ取ることが出来ます。
さらに、たとえば、以下のような名言に接すると、背筋がピンと伸びるようにも感じます。
春風(しゅんぷう)を以て人に接し、秋霜(しゅうそう)を以て自ら粛(つつし)む(※3)
戒めとしても心に沁みますが、「春風」と「秋霜」という、お天気の言葉の対比も見事ですよね。

私たちは、物理的な空気の流れの「風」ではなく、さらには「花鳥風月(かちょうふうげつ)」「風光明媚(ふうこうめいび)」などの四字熟語も相まって、人の心持ちまでも「風」で表現する・・・「風」に限らず、自然現象に命を吹き込んで表現する文化を連綿と受け継いで来ていますし、これからも受け継ぎ続けて行くはずです。

「風」についての日本語表現だけでも、まだまだ数え切れないほどあります。ちょっと時間を取って調べてみましょう。想像を膨らませると、きっと、あなたの魂が喜びますよ!

《サニーちゃんのお天気メモ》

(※1)子供向けだけど、お天気に関する疑問などは、最初にこのページを見ると判り易いかも知れないよ。 http://www.jma.go.jp/jma/kids/faq.html

(※2) 僧正遍昭(そうじょうへんじょう:816~890年、平安時代前期の歌人)作で、百人一首でもお馴染みだよ。「美しい天女の姿をもう少し見ていたいので、その通り道を雲で塞いでほしいと空吹く風にお願いする(私訳)」なんて、何とも切なくロマンチックだね。
羽衣伝説なのかな?
月への帰り道を雲で塞ぐとすれば、この美しい天女は「かぐや姫」なのかも?

(※3)佐藤一斎(さとういっさい:1772~1859年、江戸時代後期の儒学者)の名言で、「他人には春の風のように穏やかな暖かい心で接し、自分には秋の霜のように厳しい心で律すること」の勧めなんだよ。

<ゼフ>