4月末に新潟県十日町市~上越市を訪れた時、地元の方に「雪形(ゆきがた)」を教えていただきました。「雪形」とは山の岩肌と積雪が織り成す模様のことです。
正面に映るのは菱ヶ岳(ひしがたけ)。菱ヶ岳の雪形は「馬」です。まだ雪深く、雪形は完全に現れていません。頭と尻尾(しっぽ)が出ていましたが、最終的に足以下の残雪がストンと抜けると馬になるのだそうです。
こちらは去年の5月中旬の菱ヶ岳です。雪形、分かりますか?馬が馬鍬(まぐわ)を引いています。馬が現れたら田植えの時期です。
なお、馬の尻尾が細くなる頃が豆まき、馬の首が切れると粟まき、馬の形がはっきりする頃、馬が馬鍬を引く形になるともみまきの目安となる時期だそうです。さらに尻尾の太い年は天気が良くて豊作、尻尾が細く早く崩れると水不足で凶作という伝承(でんしょう)があります(※1)。
昔まだ天気予報の技術がなかった時代、その地に住む人々は雪形を田植えや豆まきなどの農作業の時期を目安にしていました(※2)。雪形の多くが馬、牛、農民、農具等、農作業と関わりのある名称であり、それぞれに、種をまく時期、薪(まき)をとる時期、山菜をとる時期、魚をとる時期などの伝承があることからも、雪形は農事暦(のうじれき)として利用されていたことがわかります。農作業の時期を、山の雪解けから判断していたのです。その年その年の寒暖の具合が山腹の残雪に反映されるので、雪形を目安にする方が暦に頼るよりも正確である事を、昔の人たちは経験から学んでいたのですね。さらには雪形の出現時期、形、消え方等を一年間の天候占いや豊凶の手がかりにしていました(※1)。こういった伝承については科学的に根拠が実証されているものもあります(例:残雪が早く消える→水不足)。先人たちの観察眼には感服します。
雲や風など空の様子や身のまわりの自然を観察して天気を予測することを「観天望気」と言いますが、雪形は観天望気を清らかに研ぎ澄ました結晶ともいえるのではないでしょうか。
しかし天気予報の技術が進んだ今、雪形の存在価値は失われつつあるようです。
ちょうどこの季節、川には雪解け水がほとばしり、雪が解けてぬかるんだ土からは、つくしやふきのとうなど春の山菜がいたるところに芽吹いていました。
またこの辺りでは平野はもちろん山間部でも、急な斜面を階段状に切り開いた棚田が幾重にも敷き詰められ、見事な景観を描いていました。棚田には豊富な雪解け水がたゆたゆと蓄えられ、田植えを待つ春のおだやかな光景が広がっていました。
そろそろ菱ヶ岳に馬が姿を現している頃でしょう。今年も農作業の季節が始まります。
※1 図説雪形 斎藤義信
※2 新版 信州雪形ウォッチング 近田信敬
<サニーちゃんの一口メモ>
1.雪形は全国約にあって、新潟県が一番多く、次いで長野県が多いのよ。
2.雪形には「ポジ型」と「ネガ型」があるのよ。「ポジ型」は山肌の窪地になっている部分に消え残っている雪が描く白い絵柄。一方 「ネガ型」は、白い残雪の中で雪の解けた山肌が黒く浮き上がっている黒い絵柄なのよ。菱ヶ岳の馬はポジ型よ。
<32号>